ここでまず、債務整理には、どのような方法があるのかを、簡単にご紹介していきましょう。
目次
債務整理の5つの方法
任意整理
任意整理は債権者である貸金業者と交渉をして債務の額を減額したうえで分割払いとする合意をする整理方法です。
弁護士や司法書士が債務者の代理人となって貸金業者と交渉を行います。多くの場合、将来の利息をカットして、3年から5年払いの分割払いとする合意でまとまります。ただし、元金のカットまで合意する貸金業者はあまりいません。
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特定調停
特定調停は簡易裁判所の調停委員を仲介役として債権者と交渉を行い、債務額を減額し、やはり3年程度の分割払いとする合意をする整理方法です。
簡易裁判所に申し立てをすれば、裁判所が債権者を呼び出してくれます。特定調停は弁護士や司法書士に依頼せずとも債務者本人が申し立てを行って裁判所を利用できることを目指した制度です。
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自己破産
自己破産は、債務者の財産を処分し、債権者への返済(配当)に充てる代わりに残ってしまった債務の支払いを免除(免責)してもらう法的手続きです。裁判所の強制力のある手続きである点が、任意整理、特定調停と異なります。
債務者の所有する一定額以上の価値のある財産は、全て処分しなければなりませんが、それ以上の債務を支払う必要がなくなるので、強力な最終手段です。
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個人再生
個人再生は、債務が5,000万円以下(住宅ローンなどを除く)であって、反復・継続的に収入を得る見込みのある人が利用できる制度です。
裁判所によって、元金部分までも含めて、債務を大幅に減額した上で、それを3年(特別な事情がある場合は、最長5年)の分割払いとしてもらえる制度です。
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過払い金請求
過払い金請求は、利息制限法の定める上限の利率を超える利息を支払った場合、その支払い過ぎた分、すなわち、「過払い金」の返還を貸金業者に求めることです。これから、詳しく説明します。
過払い金とは?
過払い金とは、簡単に言えば、貸金業者に返し過ぎたお金のことです。払う必要のないお金を払ってしまったのですから、お釣りを間違えて多く渡してしまったのと同じです。そのお金の返還を求めることができるわけです。
では、何故、このような過払い金が発生するのでしょうか?これには、3つの法律の問題が絡む、歴史的な事情があります。3つの法律とは、「利息制限法」、「貸金業法」、「出資法」です。
利息制限法
利息制限法は、貸付金の元金の大きさ別に、3種類の金利を定めています。
元金の額 | 利率 |
---|---|
10万円未満 | 年20% |
10万円以上100万円未満 | 年18% |
100万円以上 | 年15% |
この利息制限法に違反する利息の約定は違法であり、無効です。しかし、利息制限法に違反しても、刑事罰(罰金や懲役刑)はありません。
貸金業法
貸金業者を規制する「貸金業法」は、旧名称を「貸金業の規制等に関する法律」(2007年まで)といいました。この法律は利息制限法の利率を超えた違法な利息であっても、借主が任意に支払うなら、貸金業者が一定の書類などを交付していることを条件に、有効な利息の支払いとみなすと定めていたのです(これを旧貸金業法43条の「みなし弁済規定」といいます)。
そこで貸金業者は、利息制限法を超える利息をとり、この「みなし弁済規定」が適用されるので、利息を返す必要はないと主張していたのです。
出資法
出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)は、刑罰の規定がない利息制限法に代わって、高すぎる金利を刑罰で禁止する法律です。懲役刑や罰金刑が定められています。
ところが、刑罰が適用される上限利率は、年40.04%(2000年6月まで)、年29.2%(2006年6月まで)という、利息制限法をはるかに超える高い利率でした。したがって、利息制限法に違反しても、この出資法の高い利率より下であれば、何の処罰も受けません。つまり、利息制限法の利率を超えた利息は違法でありながら、出資法の上限利率に達していないため処罰は受けないのです。白ではないが、黒ではないという意味で、「グレーゾーン金利」と言われていました。
貸金業者は、このグレーゾーンであれば処罰されないことから、利息制限法を超えて、出資法の上限金利ギリギリの高い金利を取ったうえ、「みなし弁済規定」の適用により、利息の返還を拒むことができたのです。
最高裁判所は2006(平成18)年1月13日、この「みなし弁済」規定を適用できる条件を非常に厳しく制限する判決を下し、事実上、貸金業者が利息制限法に違反して受け取った利息の返還を拒む途を封じました。これによって、利息制限法を超える利率の利息を受け取った貸金業者は受け取りすぎた利息の返還を請求された場合、これに応じなければならないことになりました。これが過払い金(返還)請求です。
なお、今では、出資法の上限金利は、利息制限法と一致する年利20%に引き下げられ、グレーゾーン金利はなくなりました(2010年6月から)。さらに、貸金業法の「みなし弁済」規定も廃止されました(2010年6月から)。
債務整理と過払い金返還請求
毎回の利息支払いで利息制限法を超えた部分(これを「超過利息」といいます)は、払い過ぎの分として「利息」ではなく「元金」の返済に充てられたものと取り扱われます。したがって、超過利息を支払い続けていれば、元金は減ってゆきます。元金が減ってゆけば、計算上、利息金も少なくなりますから、さらに超過利息が増えて元金に充当されてゆき、どんどん元金が減ってゆくという関係になります。このため、利息制限法に基づく正しい利率で計算し直す(これを「引き直し計算」といいます)と、次のようなことが判明します。
- 貸金業者が主張している残債務よりも、少ない金額の債務しか残っていない。
- 貸金業者は、残債務があると主張しているけれど、計算上、元金も利息もすでに完済されて、借金はなくなっており、必要のない返済を続けていた。
この①の場合は、計算上、正しい残債務額に基づき債務整理をすればよいのです。また、②の場合はもはや債務整理の必要はなく過払い金請求をすることになります。
弁護士や司法書士が任意整理を担当する際には、貸金業者から取引履歴を開示させ、引き直し計算を行って、正しい債務額がいくらなのか、過払い金請求権が発生しているかどうかを明らかにした上で整理を行います。
自己破産や個人再生という手続きを選択しなければならない場合であっても、やはり、引き直し計算をして正しい債務額を確定することが手続きの前提です。特定調停の場合も、簡易裁判所の調停委員が、引き直し計算をして、正しい債務額を算出してくれます。
債務の有無 | 過払い金返還請求権の有無 |
---|---|
完済している人 | 過払い金返還請求権が発生している |
返済している途中の人 | ①貸金業者が主張している残債務よりも、少ない金額の債務しか残っていないケース (過払い金は元本に充当されている) |
②貸金業者は残債務があると主張しているけれど、計算上、元本も利息もすでに完済されて、借金はなくなっており、必要のない返済を続けていたケース (過払い金返還請求権が発生している) |
過払い金請求のメリット
では、これまで説明した点も含めて、過払い金返還請求権のメリットについてまとめて説明します。
支払いすぎたお金が現金で戻る
なんといっても、払いすぎていたお金が現金で戻ってくるということが最大のメリットです。
しかも、過払い金は、本来、貸金業者が債務者に返還しなければならないお金ですので、返金するまでの間の利息(遅延損害金)も支払う義務があります。過払い金の利息は、民法によって年5%の利率と定められています。
過払い金には、所得税がかからない
過払い金は、払いすぎていたお金が戻ってくるだけであって所得ではありませんので、所得税の課税対象になりません。
ただし、上に説明した過払い金の利息(年5%)は雑所得として課税対象となります。また、債務者が払い過ぎであった超過利息をその支払った年度において経費として計上していた場合は経費が戻ってきたのですから、その年度の申告を修正する必要があります。
返済中の人は借金の減額または借金がゼロになる
先に説明しましたとおり、引き直し計算によって過払い金請求権の有無を調査することは全ての債務整理における大前提です。
引き直し計算の結果、過払い金請求権が発生していることが判明すれば、少なくともその債権者についてはもはや債務整理の必要はありません。また、超過部分が元金の支払いに充当される結果、債務額の減少が判明する場合もあります。
完済している場合ブラックリストにはならない
債務を完済している人が、過払い金請求をしても、ブラックリストにはのりません。
ブラックリストとは俗称で信用情報機関に登録される事故情報をいいます。例えば、自己破産、個人再生、弁護士や司法書士による債務整理、延滞などの情報が登録されます。事故情報が登録されると、登録期間である5年から7年の間は、金融機関から新規の融資を受けたり、クレジットカードでのキャッシングや分割払いでの買い物をしたりすることは、事実上、困難となります。
しかし、過払い金請求は、当然の権利の行使であって、延滞や自己破産とは全く異なります。このため過払い金請求をしても信用情報に登録されることはありません。ただし、債務を返済している途中の人が債務整理を行い、債務がゼロであることが判明すると共に、過払い金請求権があることも判明し、これを行使したという場合は当初の債務整理開示の段階で「債務整理」として登録されてしまいます。過払い金請求権の存在が判明した段階で、この登録は抹消されるべきであり、そのように対応する貸金業者もありますが、そのまま放置してしまう業者もいるようです。登録が放置されないように、事後に信用情報の開示を信用情報機関に求め、登録されたままであった場合は貸金業者へ抹消を要求する必要があります。
保証人への影響はない
完済ずみの場合は既に債務は消滅しており、保証人の責任も消滅しているので、保証人には何の影響もありません。過払い金請求権を貸金業者へ行使しても、保証人にはまったく迷惑はかかりません。返済途中の場合も引き直し計算の結果、債務がゼロであることが判明したうえ、過払い金請求権があることが判明した場合は、保証人の義務も消滅していますので、やはり保証人には影響がありません。
返済途中で、引直計算の結果、債務は残るものの、債務額が減少することが判明した場合は保証人の責任も減少した金額の範囲内に限定されます。したがって、保証人の責任は軽くなることはあっても、より重くなることはありません。
過払い金を請求する債権者を選べる
自己破産、個人再生では特定の債権者を選んでその債務だけの処理を行うということはできません。全債権者について裁判所に届け出なくてはなりません。
しかし、過払い金請求は権利の行使ですから、どの貸金業者へ請求するかは自由に選ぶことができます。
資格制限はない
自己破産の場合は、免責を受けるまでは、会社の取締役、弁護士、税理士、宅地建物取引士、警備員、パチンコ店店長など一定の職業につく資格を制限されます。しかし、過払い金請求権の行使しても、このような資格制限を受けることは一切ありません。
借金をした理由は問わない
自己破産では、ギャンブルや浪費によって過大な債務を負担した場合は、免責を受けられない場合があります(免責不許可事由)。しかし、過払い金請求には、もともとの債務を負うに至った理由、原因は全く関係がありません。
官報に掲載はされない
自己破産と個人再生は、その手続きをしたことが官報に掲載されます。しかし、過払い金請求は、例え正式に裁判所で訴訟を起こしたとしても、官報に掲載されることがありません。
過払い金返還請求のデメリット
では過払い金返還請求のデメリットについてもまとめてみます。
10年で権利が時効消滅してしまう
過払い金請求権は10年間経過すると時効で権利が消滅してしまいます。この時効期間のスタートは貸金業者との「取引が終了した日」と理解されており、通常は「最後の借入日」又は「最後の返済日」ということになります。
ただし、過払い金請求権の時効期間のスタートについては、多くの法律問題が存在しているので、一律には論じられません。ご自分で10年経過してしまっているから駄目だと素人判断することは禁物です。必ず、専門家である弁護士、司法書士の判断を仰ぐべきです。
引き直し計算をしてみないと過払い金があるかどうかは分からない
過払い金請求権の有無は、取引履歴に基づいて、引き直し計算をしてみなければわかりません。
超過部分を支払ってきた方が完済している場合は、過払い金が発生しているはずですが、これも確かなことは取引の経過を調査し計算をしてみないことにはわかりません。まして、返済途中の方の場合はきちんとした調査なしに、見通しをつけることはできません。
返済途中の方はブラックリストに登録されてしまう危険性がある
先ほども説明したとおり、債務の返済中に債務整理を始め、過払い金請求権が判明した場合、債務整理の事実が信用情報に登録され、そのまま放置されてしまう事実上の危険があります。
弁護士、司法書士の費用がかかる
過払い金返求権の調査及び権利の行使は、実際上、法的知識のない一般の方が行うことは難しく、法律の専門家である弁護士、司法書士に依頼する必要があります。このため、弁護士費用、司法書士費用がかかります。
過払い金請求を検討すべき人とは
では、最後に、過払い金請求を検討するべき人とはどのような方か説明します。
債務整理をする方(債務整理の前提として)
自己破産、個人再生、任意整理という方法の如何を問わず、弁護士や司法書士に債務整理を依頼すれば、必ず過払い金の有無を調査、検討してくれます。過払い金があることが判明したら、その回収を依頼しましょう。
多くの場合、貸金業者との交渉で回収が可能です。また、貸金業者が応じない場合でも、訴訟を提起することで、支払いに応じる場合が大部分です。
特定調停を申し立てた場合も、簡易裁判所の調停委員は、貸金業者に開示させた取引履歴から、引き直し計算をして、過払い金の有無を調べてくれます。ただし、過払い金があった場合でも、裁判所は請求まではしてくれないので、別途、弁護士や司法書士を依頼する必要があります。
長期間、貸金業者に返済をしてきた方
長年、超過部分を支払い続けていた方は、過払い金が発生している可能性が高いことになります。
特に、出資法、貸金業法が改正され、グレーゾーン金利がなくなった2006年以前から取引を継続していた方は、超過部分を支払っており、過払い金が発生している蓋然性が高くなります。